これまで、お風呂の排水溝のことなんて、正直ほとんど気にしたことがありませんでした。掃除の時に髪の毛を取るくらいで、その奥がどうなっているかなんて、考えたこともなかったんです。あの引っ越しをするまでは。新しいアパートは、駅から近くて日当たりも良く、とても気に入っていました。ただ一つ、お風呂場だけが妙に古臭いタイル張りだったのが気になりましたが、まあ、掃除すれば綺麗になるだろうくらいに思っていました。ところが、住み始めて数日経った頃から、浴室に違和感を覚え始めました。なんだか、常にうっすらと嫌な臭いがするんです。最初はカビかな?と思って、壁や床を念入りに掃除してみましたが、臭いは消えません。むしろ、換気扇を止めると、もわっとした下水のような臭いが強くなる気がします。そして、ある夜、シャワーを浴びていると、足元に黒い小さなものが動くのを見つけました。ギョッとしてよく見ると、それはチョウバエでした。その日から、浴室に入るたびに、どこからともなく現れるチョウバエに悩まされるようになりました。おかしい。こんなに掃除しているのに、なぜ?疑問に思い、スマートホンで「お風呂 臭い 虫」と検索してみて、初めて「排水トラップ」というものの存在を知りました。下水の臭いや虫が上がってくるのを防ぐための部品だというのです。慌てて自宅の浴室の排水溝を懐中電灯で照らしてみました。そこにあったのは、ただの穴。ゴミ受けの目皿はあるものの、その下には水を溜めるような構造は全く見当たりませんでした。「トラップがない…!」原因はこれだったのか、と愕然としました。すぐに大家さんに連絡し、状況を説明。幸い、大家さんは理解のある方で、すぐに業者さんを手配してくれ、後付けでワントラップを設置してもらえることになりました。工事は半日ほどで終わり、その日の夜、おそるおそる浴室に入ってみると…あの嫌な臭いが全くしない!チョウバエの姿もありません!当たり前のように排水され、当たり前のように臭いや虫が上がってこない。排水トラップが、いかに私たちの快適なバスタイムを守ってくれていたのか、失って初めてそのありがたみを痛感しました。普段、何気なく使っているものにも、大切な役割があるんですね。これからは、排水溝の掃除も、感謝の気持ちを込めてやろうと思います。
排水トラップのありがたみを実感した日