数年前、家賃の安さに惹かれて都内の古いアパートに引っ越したことがあります。築年数はかなり経っていましたが、リフォーム済みで内装はそこそこ綺麗。特に不満はないだろうと思っていたのですが、住み始めてすぐに大きな問題に直面しました。それは、お風呂場の排水溝からの強烈な臭いです。入居初日、荷解きもそこそこに、まずは汗を流そうとお風呂場へ向かいました。ドアを開けた瞬間、ツンと鼻をつく下水のような臭い。換気扇を回せば消えるだろうと、その時はあまり気にしませんでした。しかし、その臭いは一向に消える気配がありません。特に、お湯を流した後や、湿度の高い日には、まるで下水道の中にいるかのような不快な臭いが浴室全体に充満するのです。原因を探ろうと排水溝を覗き込んでみて、私は愕然としました。そこには、水を溜めて臭いを防ぐための「排水トラップ」と呼ばれる部品が、どこにも見当たらなかったのです。排水口の穴は、そのまま真っ直ぐ下水管に繋がっているようでした。これでは臭いが上がってくるのも当然です。すぐに管理会社に連絡しましたが、「古い建物なので、そういう仕様なんです」という、にわかには信じがたい返答。何度か掛け合いましたが、改善される気配はありませんでした。それからの日々は、臭いとの戦いでした。使わない時は排水口にゴム製の蓋をしてみたり、市販のパイプクリーナーを頻繁に使ってみたりしましたが、根本的な解決にはなりません。蓋をしても隙間から臭いは漏れ、クリーナーの効果も一時的。そして、臭い以上に私を悩ませたのが、虫の出現です。夏場になると、どこからともなくコバエが浴室に発生し、時には小さなゴキブリを見かけることもありました。排水口が唯一の侵入経路としか考えられません。どんなに掃除をしても、虫の発生源は下水管の奥。リラックスできるはずのお風呂の時間が、常に臭いと虫の恐怖に怯える、憂鬱な時間へと変わってしまいました。結局、私はそのアパートを1年足らずで退去することに。排水トラップの存在がいかに重要か、身をもって痛感した出来事でした。次に家を探すときは、必ず排水溝の構造までチェックしようと固く心に誓ったのは言うまでもありません。
排水トラップ無し風呂での暮らしと苦悩