それは、梅雨時の蒸し暑い日のことでした。洗濯物が山のように溜まり、今日こそはと意気込んで洗濯機のスイッチを入れた母でしたが、いつまでたっても給水が始まりません。「あら?どうしたのかしら」首を傾げる母。洗濯機の前でうーん唸っているところに、父がやってきました。「どうした、洗濯機のご機嫌が悪いのか?」事情を聞いた父は、「よし、俺に任せろ!」とばかりに、まずは水道の蛇口を確認。問題なく開いています。「ふむ、次はホースだな」洗濯機の裏側を覗き込み、ホースが折れていないか、接続は大丈夫かを確認。「異常なし、だな」と父。次に疑ったのはフィルターの詰まりです。母が取扱説明書を探し出し、父がフィルターを取り外して確認しましたが、こちらも特に汚れてはいません。「うーん、これは困ったな…」父も少しお手上げ状態です。そこに、学校から帰ってきた娘の明子が登場。「ただいまー。あれ、洗濯できてないの?」状況を聞いた明子は、「もしかして、この前、お父さんが水道の元栓いじらなかった?」と言い出しました。そういえば、数日前に庭の水道で水漏れがあり、父が元栓を一時的に閉めたことがあったのです。「まさか…」父は慌てて家の外にある水道の元栓を確認しに行きました。数分後、少しバツが悪そうな顔で戻ってきた父。「…元栓、完全に開いてなかったみたいだ」なんと、庭の水漏れ修理の後、元栓を中途半端にしか開けていなかったため、家全体の水圧が少し下がり、洗濯機が正常に給水できなかったようなのです。元栓を全開にすると、洗濯機は何事もなかったかのように勢いよく給水を始めました。「お父さん、もう!」母と明子からの非難の視線を浴びながら、父は「いやー、うっかりしてた」と頭を掻くばかり。結局、洗濯機の故障ではなく、単純な父のミスが原因だったのでした。わが家では、この「水が出ない事件」以来、水道の元栓を触った後は、必ず家中の蛇口を確認するというルールができたのでした。一件落着、とはいえ、家族にとってはちょっとした騒動の一日となりました。