全ての始まりは、築二十年の我が家の、古びたキッチン水栓から、ポタ、ポタと水が滴り落ちるようになったことでした。業者に見積もりを頼むと、工賃込みで五万円近い金額。その数字に、私のDIY魂が、メラメラと燃え上がったのです。「これくらいなら、自分でできるはずだ」。YouTubeの交換動画を何度も見て、知識だけは完璧に頭に叩き込み、意気揚々と、ホームセンターで、手頃な価格の蛇口と、工具一式を買い揃えました。しかし、私のその楽観的な見通しは、作業開始から、わずか三十分で、見事に打ち砕かれることになります。最初の難関は、古い蛇口の「取り外し」でした。シンク下の止水栓は、幸いにも、すんなりと閉めることができました。しかし、問題は、蛇口本体を、シンクの裏側で固定している、巨大なナットでした。長年の湿気とサビで、完全に固着しており、専用の立水栓レンチに、全体重をかけても、びくともしません。格闘すること一時間、汗だくになりながら、ようやくナットを緩めることに成功した時には、すでに私の腕は、パンパンになっていました。そして、いよいよ新しい蛇口の取り付けです。取扱説明書を読みながら、慎重に作業を進め、給水管と給湯管を、新しい蛇口に接続します。シールテープも、動画で見た通りに、完璧に巻いたはずでした。全ての接続が完了し、ついに、止水栓を開ける、緊張の瞬間。私は、ゆっくりと、止水栓のハンドルを回しました。その瞬間、事件は起きました。「シューッ!」という、鋭い音と共に、給水管の接続部分から、まるで霧のように、水が勢いよく噴き出してきたのです。パニックになった私は、慌てて止水栓を閉めましたが、時すでに遅し。シンク下のキャビネットの中は、あっという間に水浸しになっていました。原因は、私の、シールテープの巻き方の、致命的なミスでした。巻く方向が、逆だったのです。結局、私は、びしょ濡れになった床を拭きながら、情けない気持ちで、プロの水道業者に、助けを求める電話をかけました。駆けつけてくれた作業員の方は、私の無残な施工跡を一瞥すると、苦笑いを浮かべながら、わずか十分で、完璧に作業を終わらせてくれました。あの日の失敗は、私に、プロの技術の偉大さと、そして、生半可な知識で、ライフラインに手を出すことの恐ろしさを、骨の髄まで教えてくれた、忘れられない教訓となっているのです。
私が蛇口交換DIYで大失敗した話